盛り上がる中学受験
誰もが知っている大手進学塾で塾講師をしている私が、実際の教育現場から見た中学受験についてお話ししたいと思います。
最近、塾講師として働いて一番感じるのは、「中学受験が非常に盛り上がっている」ということです。私が所属する後者では、高校受験クラスの生徒より、中学受験クラスの小学生のほうが圧倒的に多いです。
そして、多くの保護者様が口を揃えて言われるのが、「中高一貫の学校に入る」、または「大学までエスカレーターで行きたい」ということです。そこで、今回は様々な面から中学受験について解説していきたいと思います。
費用はいくらかかる?
こちらは公立の学校と私立の学校を対比した場合の1年あたり教育費です。
※公私対比:例えば公立幼稚園の教育費が10万円だと、私立の幼稚園の教育費はその2.1倍である21万円になるということ。
中高一貫校に入学した場合、中学校では1年あたり85万円の違い、高校では1年あたり59万円も違うことになります。
こちらは公立と私立のどちらに通うかで、幼稚園から高校までの教育費がいくら違うかを示したものです。
(出所)文部科学省、「子供の学習費調査:平成28年度」より筆者作成
中学受験をして公立小学校化から中高一貫校に入学した場合は、幼稚園から高校までの教育費が約989万円となります。
また、すべて公立の学校に通った場合は約541万円。高校のみ私立の場合は、約718万円となります。
すべて公立の学校の学校に通った場合と、中高一貫校に通った場合では約448万円の違いがあることが分かります。
さらに、この金額は入学金や授業料など学校内での費用のみですので、これに受験料や塾費用、定期券などの交通費、参考書代などを合わせると、かなりの金額になると思われます。
また、目に見えない細かいお金としてかかってくるのが交際費です。私立中高ではすでに示した通りかなりの額がかかるので、必然的に収入が高めなご家庭が多いです。そうなると、子どもの遊び代も公立の場合とは違ったものになり、月のお小遣いが1~3万円などもザラにあります。そういった子と仲良くなると、自然とお金を使いますから親にとっても子どもにとってもつらいです。
教育やカリキュラムの違いは?
基本的に中高一貫校では、高校2年生の時点で高校の学習内容を終えるカリキュラムが組まれています。つまり、高校3年生の期間は大学受験の勉強に専念できます。また、私立校ではオリジナル教材や、一般の参考書など優れた教材を使用することが多いです。授業内容も公立校とは違ったものになります。
例えば英語ならば、公立校と比べてグループワークが少なめだったり、ディクテーション(リスニングしながら書き取りをすること)の頻度が多く、公立校よりも大学受験を見据えたハイレベルな教育内容となっています。様々な学校の過去入試問題を授業で使用することも多く、授業内容としては満足いくものになるでしょう。
私立難関中高一貫校の代表格である開成高校では、授業内容を担当の教員に一存しており(もちろん基本的なカリキュラムはあります)、公立校では味わえない高度で深みのある授業を受けることが出来ます。
これに対し公立高校では、文部科学省や東京都教育委員会の指導要領に忠実に沿った授業をしており、どの教員でも授業内容にそこまで差はありません。もちろん担当の教員によって授業のレベル感は変わってきますが、少なくとも私立校のような大学受験を見据えた高レベルな授業を受けることは難しいでしょう。
また、中高一貫校と違い、公立校では高校受験・大学受験と短期間で2回の受験が基本的にはあるので、子どもの精神にストレスがかかるのは公立校です。中学と高校が繋がっていないので、高校2年生の時点で高校の学習内容を終えることもできず、高校3年生になっても通常の授業を受ける必要があります。
入試制度や入試の難易度は?
公立の中学校であれば基本的に入試はなく、小学校からそのまま上がれます。中には公立の中間一貫校もありますが、こちらは入試を受ける必要があります。
これに対し私立中高一貫校では、入試が存在します。入試科目は基本的に4教科(国語・算数・理科・社会)で、最近だと英語で受験することも認められています。問題の内容は学校ごとにかなり違いますが、上位校になればなるほど問題のレベルも高くなり、記述式の解答を要求する学校が増えてきます。
また、午前受験と午後受験のように、入試は午前と午後の時間帯で分かれており、1日で2校受けることも可能です。志望校の試験日程の調整がしやすい所も中学受験の特徴です。
そしてここからが重要ですが、中高一貫校の入試問題は大人でも解けないです。「小学校の内容なら余裕でしょ」なんて思っていると、絶対に落ちます。中学受験の内容は、小学校で学習する内容とはかけ離れていますから、よくある、「独学で中学受験に受かった」、みたいなことはほとんど不可能です。必ず塾に通い、塾の言う通りに勉強してください。
また、中学受験では基本的に国語と算数が重要です。国語では高校生でも解くのが難しい評論文や小説文を読まされ、算数では計算力はもちろんのこと、短時間で発想力を試されるような設問が多くなっています。志望校ごとにしっかりと対策をしないと、手も足も出ずに試験時間が終わってしまいます。
最近の入試問題の傾向として、より思考力を問われるような難しい設問が増えています。今までは知識の詰め込みで何とかなる部分も多かったのですが、最近は知識を持っているのは前提として、論述で自分の考えや筆者の考えを要約して書かせるような、思考力を試す設問が多いです。
この背景として、大学入試センター試験がマークシートから記述式に変わることが、大きな要因の一つではないかと考えられます。いずれにしても、今までよりさらに勉強量を増やして、深みのある勉強をしないと合格は難しくなっています。
最後に勉強時間としては、小学校4年生で1日2時間程度、5年生で1日3時間程度、6年生になってからは1日4~5時間、受験期には1日8時間程度が、難関校合格に必要な勉強時間の目安です。
受験校の選び方は?
私立の中高一貫校を選ぶにあたって、以下の点を考えると良いと思います。
- 学費
- 自宅からの距離
- 学校の偏差値やレベル感
- 周りの生徒の様子・学校の雰囲気・学習環境
- 部活動やクラブ
- 学校行事やイベント
- 入試制度
- 大学進学実績・大学への指定校推薦
ご家庭によって重視するポイントは違うと思いますが、塾講師としてお子様や保護者の方から聞いた話をもとに、あえて筆者が重要なポイントをランキングにしました。
1.学費については言うまでもありませんが、学校によってかなり違いがありますので、一番最初に調べて下さい。入試が始まってから、「実は行けない」では子どもの努力が無意味になってしまいます。
2.自宅からの距離については、意外と軽視されることが多いですが、非常に重要です。少しでも自宅から近い学校を選ぶようにしてください。通学に片道1時間かかるような学校だと、毎日のことですから子どもが疲れてしまいます。
3.偏差値についても多くの方が気にされますが、あまりに実力から離れたところは選ばないほうが良いです。子どもの努力が実る限界のところを選ぶようにすると、子どもの大きな成功体験の一つにすることが出来ます。また、当然ですが偏差値の高い学校ほど周りの環境も良くなりますので、基本的には上位校を目指しましょう。
4.正直、筆者は学習環境が最も重要だと考えています。偏差値が非常に高い学校なら環境の心配はいらないものの、中堅校ならば学校の雰囲気をよく見たほうが良いです。学校によっては、偏差値は高めだが生徒が全然勉強しない、なんて高校もありますから、学校見学は絶対に行くようにして下さい。
5.部活動やクラブはあまり重要ではないですが、子どもが好きなスポーツがあれば大きな要因として捉えてよいと思います。その際、大会実績なども合わせて調べるようにしましょう。
6.学校によって行事は様々です。中には1年中文化祭の準備をしているような学校もありますので、学校が行事にどれほど本気なのかをよく見ておきましょう。
7.入試制度はあえてランキング下位にしました。その理由は、子どもが本当に行きたい学校でなければ意味がないからです。上記1~6の条件で探して、「この学校に行きたい」、「この学校なら通える」と思った学校が見つけてから、初めて入試制度について調べて下さい。
8.最後に大学への進学実績を調べましょう。1~7までの条件を踏まえれば自然と望むような大学実績になるとは思いますが、子どもに行かせたい・子供が行きたい大学へはどれくらい進学しているのかが、高校生になった時点で非常に大切になってきます。
どの塾に通えばいい?
中学受験において、塾選びは非常に大切です。個人塾も良いですが、やはり受験情報・データを豊富に持っている大手の塾が良いと思います。中学受験での大手塾は主に、「SAPIX」、「日能研」、「四谷大塚」、「早稲田アカデミー」の4つです。
・SAPIX
基本的に上位層がターゲットの塾で、他塾と比べて御三家など難関校への合格実績が顕著です。偏差値的に上位の学校へ入りたいならSAPIXをおすすめします。しかし、上位の生徒を相手にしているため、今までの学習内容がしっかり身についていないと授業についていくのが厳しいです。
・日能研
成績が上から下まで広い範囲の生徒を対象にしています。同じような問題を何度もやらせることでパターン学習をし、受験に必要な知識を漏れなく習得できます。しかし、繰り返しの勉強が飽きてしまう子どもには不向きです。
・四谷大塚
「四谷大塚」と名のついた塾がたくさん存在するわけではなく、四谷大塚に準拠した塾が多いです。他塾も四谷大塚のテキストである、「予習シリーズ」を使っていることもあり、参考書の面では強いです。ただ、上位層を相手にしているため、子どもの能力に応じて通塾を考えたほうが良いです。
・早稲田アカデミー
体育会系の塾です。ターゲットとしては上位から下位まで幅広く扱っているものの、下位クラスでは新人のバイト講師を使うなど、上位の生徒が優遇されている雰囲気はあります。宿題の量がとても多く、受験期には宿題以外の勉強をしている暇がないほどです。しかし、宿題をしっかりこなせるコツコツタイプの子どもには非常にあっていると言えるでしょう。
親は何をすればいい?
塾で面談をしていると、「親として何をすればいいか分からない」というご質問がかなりあります。
基本的に、親がすることはお金の管理、子どもの精神的ケア、書類の作成・提出で、勉強に関することは塾に任せておいたほうが良いです。しかし、相手は小学生の子どもですから、なんとなく宿題をやらなかったり、塾に行きたくなくなったりということも十分に考えられます。その時に、「勉強をしなさい!」とむやみに怒るのではなく、子どもから理由や考えをしっかりと聞き出すことが大事です。大人から見ておかしな理由だったり、ただの甘えであると判断すれば、注意した後にいつも頑張っていることを褒め、子どものやる気が持続するようにします。重要なのは、子どもは褒めて伸ばすということです。基本的には叱るのではなく褒めて伸ばしましょう。
実際、私が受け持っているクラスでも、親に褒めてもらっている子どもは非常に素直でコツコツとやってくれます。
良い大学に入ることを目標にしない
中学受験をさせる目的としては、やはり良い大学に子どもを入れてあげたい、というのが強いと思います。しかし、大学に入ることを目的に中学受験をさせようとしているなら、やめた方がいいです。中高一貫校では、中学と高校が連続しているため、だらだらと過ごしてしまう可能性が十分にあります。
また、受験とは子どもが人生で最初に立ち向かう大きな壁です。受験を乗り越えるために頑張って勉強したり努力することこそが、子どもにとっての大切な経験になるのであり、大学に入るために受験をした結果、中高でだらける・大学で何もしない人になっては何の意味もありません。
子どもにとって学生である期間は非常に短く、社会人になってからの人生のほうが何倍もあります。重要なのは、社会に出てからどんな大人になりたいのか、ということではないでしょうか。子どもの人生の糧となるような受験にするためには、大学を出た後のことまでしっかり考えなければなりません。
中学受験を考えている方は、もう一度よくお子様と話し合って、将来どうしたいのかをよく考えてから受験を決めて下さい。
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